2019.07.21ピアノ・ブログ
寄り添う音楽その2・望まれた演奏会、音楽のお届けもの
神奈川県藤沢市のピアノ教室MARE鵠沼海岸です。
前回のブログに寄り添う音楽について書きました。今日はその続きを書き足したい気持ちがとても強くなったので同じ表題で。
札幌にいた頃に活動した音楽のお届けものは、もともと札幌在住のヴァイオリニストMさんがやっていらしたものでした。
Mさんのことは、引っ越し前に共通の知り合いに紹介してもらい、札幌到着後すぐにお目にかかりました。
2度目か3度目にお話しした時に、演奏会に来られない方のための活動をしていると聞き、私にも手伝わせてほしいと申し出たのでした。
引っ越しするまでは、人前で演奏する機会に恵まれていたので、その機会が失われてしまったことにふさぎがちでした。
ですから、チャンスがあるのならどんな事でもやりたかったのでした。
初めてのお届けものは、ご夫婦で介護付きマンションにいらっしゃったKさんのための演奏会でした。Kさんは元ピアノの先生で、たくさんの生徒を育てたベテラン教師でした。若年性の痴呆症にかかり、まだ70そこそこのお年だったと思いますが、私がお目にかかった時にはすでにお話ができない状態でした。
Kさんはご主人に本当に愛されていて、献身的な介護を受けられていました。入退院をくりかえした末に、ご夫婦でホームに入られる決断をなさったようでした。
そのご主人の希望で、演奏会開催の運びになりました。
元がピアノの先生なのと、ご主人も合唱をやったり、時には独唱したりというご趣味があったそうで、クラシック音楽の演奏会にもお二人でよく出かけていたそうです。ですから、お二人にとってはクラシック音楽を聴くことは、ごく日常のことでした。
病気が進行してKさんが一人ではいられなくなった頃、ご主人も丈夫なタチではなかったそうで、(心臓に爆弾を抱えていらっしゃるとのことでした。)仕方なくKさんを施設に入れられたこともあったようです。その時、お年寄りといえば一律に演歌か童謡を聴かされる歌わされることに違和感を感じたそうでした。
そう言われれば、確かに一律ではないかもしれないなと思いました。
もちろん、その現場で行われていることが間違っているだなんていう気持ちは毛頭ありません。
子どもの頃歌った童謡に懐かしさを覚える方もいらっしゃるでしょう。
若い頃マイクをにぎって歌ったかもしれない演歌を聴けば、元気が出てハリがでるかもしれません。
そもそも私は介護現場のことは何も知らないのです。だから知らない場のことをとやかく言うことはできません。
ただ、あの時にKさんのご主人がおっしゃった
「あまりテレビを見ることもなかったから、音楽は好きなのに、知らない演歌を聴かされているKを不憫に思う。」
という言葉が、今も私にはひっかかっています。
Kさんへの音楽のお届けものはブラームスとショパンでした。
そこの介護付きマンションの最上階が、住人のためのレクリエーションや運動の場になっていたらしく、アップライトピアノも置かれていました。せっかくだからと聴衆は思いのほか多くなりました。
この日、私とMさんは、Kさんご夫婦とマンションにお住いの他の方々のために、演奏しました。
Kさんのご主人にはとても喜んでいただきましたが、他に感想を聞かれた老婦人には
「こんな難しいことされたって、私には何が何だかさっぱりわからない!」とも言われてしまいました。
このことからわかるように、私の活動は、決して万人に受けるものではないのです。
でも、だからこそ、必要とされる場所には出かけて行って演奏したい。
CDでもラジオでもなく、生の演奏を聴きたい!けれど状況が許されない方々のために、私ができることをしたいと思うのです。
これこそ『寄り添う音楽』なのではないかと。
先週、久しぶり会った友人が、思うだけではなく形にして行くべきではないかと励ましてくれました。
今はまだ漠然としている『私にできること、すなわち寄り添う音楽』を形にできるように考える時期がきたようです。